日大工 総合教育 樋口幸治郎
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微分方程式 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
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今回の主な内容は, 微分方程式の種類を学ぶこと, また, 一般解から初期値問題を解くことを学ぶことである(教科書p2-6, 他). その前に, 身近に現れる微分方程式の例として, 運動方程式の話をする.
(ニュートンの)運動方程式は $$F=m\dfrac{d^2x}{dt}$$ と表される微分方程式である. これは物質の運動についての方程式で, $F$は物質にかかる力, $m$は物質の質量, $x$は物質の位置を表す数(又はベクトル), $t$は時間である. この微分方程式には2回微分が現れるので, 2階微分方程式と呼ばれる.
力が一定であれば, これを解くには単に積分を2回行えば良いが, 一般に, 力$F$は, 位置$x$や時間$t$に依存する関数$$F=F(x,t),$$ 或いは, 速度$x^\prime=\dfrac{dx}{dt}$にさえ依存する関数$$F=F(x,x^\prime,t)$$である. このような場合, 運動方程式を解くことは難しくなり, 微分方程式の理論の知識が必要となってくる. 講義では, このような運動方程式も含む, 1階や2階の常微分方程式という種類の微分方程式の解法を学んでいく.
定義 微分を含む方程式を微分方程式という. 微分方程式はまず大きく二つに分けられる:
$$ 微分方程式 \begin{cases} 常微分方程式 \\ 偏微分方程式 \end{cases}$$
定義 方程式に現れる独立変数が一つであるような微分方程式を常微分方程式といい, そうでなくて偏微分を含むような微分方程式を偏微分方程式という.
常微分方程式の例. $$y^\prime=2x$$ $$xy^\prime+y=e^x$$ $$y^{\prime\prime}+x^2y^\prime+y=\sin x$$ は全て常微分方程式である. 但し, $y$は$x$についての1変数関数とする.
この講義では常微分方程式のみ取り扱う. そこで以下では, 単に微分方程式と言えば常微分方程式を表すことにする.
定義 n階微分方程式とは, 微分方程式での未知関数$y$について, 現れる最高次数の導関数が$y^{(n)}$であるような微分方程式のことである.
例.
$xy^\prime+y=e^x$は1階微分方程式
$y^{\prime\prime}+x^2y^\prime+y=\sin x$は2階微分方程式
$x^2y^{\prime\prime\prime}=\log x$は3階微分方程式
講義では,
1階微分方程式 $$y^\prime=f(x,y)$$ に, 条件 $$y(a)=b\qquad(つまりx=aのときy=b)$$ を加えた場合, 答えが一つに定まることが知られている(正確には, 以下の定理のように関数$f(x,y)$に制約が必要). この条件を初期条件といい, 連立方程式 $$y^\prime=f(x,y),\qquad y(a)=b\tag{2}$$ の解を求める問題を初期値問題という.
定理(p4の定理1.1) 連続関数$f(x,y)$について, 初期値問題(2)の解が存在する. さらに, 偏微分$\dfrac{\partial f}{\partial y}$が連続ならば, 解はただ一つである.
証明は難しいので省略する. この定理からは1階微分方程式の解の存在が分かるが, 解の具体的な形は分からない. 具体的な形の計算法を, この講義で学んでいく.
初期値問題 $$y^\prime=f(x,y),\qquad y(a)=b$$ について, 大抵の場合, (第1式の)微分方程式の一般解から初期値問題の解が求まる. それには, 一般解 $$y=y(x,C)$$ に初期条件の$x=a$,$y=b$を代入することで, $C$を求めれば良い.
(1) 微分方程式 $xy^\prime=1$ ($x>0$) の一般解 $y=\log x+C$ ($C$は任意定数) を使って, 初期値問題 $$xy^\prime=1\quad (x>0),\qquad y(1)=1$$ を解きなさい.
答. 初期条件より$x=1$, $y=1$を一般解に代入すると, $1=\log 1+C$, 故に, $C=1$. 従って, 初期値問題の解は $$y=\log x+1$$
(2) 微分方程式 $\sin 2x+\dfrac{dy}{dx}=0$の一般解 $y=\dfrac{1}{2}\cos 2x+C$ ($C$は任意定数) を使って, 初期値問題 $$\sin 2x+\dfrac{dy}{dx}=0,\qquad y(0)=1$$ を解きなさい.
答. 初期条件より$x=0$, $y=1$を一般解に代入すると, $1=\dfrac{1}{2}\cos 0+C$, 故に, $C=\dfrac{1}{2}$. 従って, 初期値問題の解は $$y=\dfrac{1}{2}\cos 2x+\dfrac{1}{2}$$
微分方程式 $y^\prime=\dfrac{y}{x}+1$の一般解 $y=x(\log|x|+C)$ ($C$は任意定数) を使って, 初期値問題 $$y^\prime=\dfrac{y}{x}+1,\qquad y(1)=0$$ を解きなさい.
答. 初期条件$x=1$, $y=0$を一般解に代入し, $0=1\cdot(\log|1|+C)$, 故に, $C=0$. 従って, 初期値問題の解は $$y=x\log|x|$$
微分方程式 $y^\prime=\dfrac{x-y+3}{x-y}$の一般解 $y=x\pm\sqrt{C-6x}$ ($C$は任意定数) を使って, 初期値問題 $$y^\prime=\dfrac{x-y+3}{x-y},\qquad y(0)=1$$ を解きなさい.
答. 初期条件$x=0$, $y=1$を一般解に代入すると, $1=0\pm\sqrt{C-6\cdot 0}$, 故に, $\pm\sqrt{C}=1$であるが, これが成り立つためには, $C=1$でしかも+のときであるから, 初期値問題の解は $$y=x+\sqrt{1-6x}$$
1. 講義では, 1,2階の(常)微分方程式の一般解の解法を学ぶ.
2. 初期値問題 = 微分方程式 + 初期条件
3. 初期値問題の解は一つに定まり, それは微分方程式の一般解から求まる.
次回(第3,4回)は, 変数分離という手法で, 1階の微分方程式を解くことを学ぶ.
変数分離について簡単に説明する. これは, $$g(y)\dfrac{dy}{dx}=f(x)\tag{1}$$ という形で表される微分方程式を解く方法で, $$\begin{align} &g(y)\dfrac{dy}{dx}=f(x)\\ \underset{積分}{\Longrightarrow}&\int g(y)\dfrac{dy}{dx}dx=\int f(x)dx\\ \underset{置換積分}{\Longrightarrow}&\int g(y)dy=\int f(x)dx\tag{2} \end{align}$$ と変形して一般解を求める手法である. (2)では, 左辺はyについての式, 右辺がxについての式, と変数が分離しているので「変数分離」と呼ぶ. (1)から(2)が導かれることが上記のように正当化されているので, 形式的に, $$\begin{align} &g(y)\dfrac{dy}{dx}=f(x)\\ \underset{両辺にdxを掛ける}{\Longrightarrow}&g(y)dy=f(x)dx\\ \underset{積分}{\Longrightarrow}&\int g(y)dy=\int f(x)dx\\ \end{align}$$ と式変形を行うと簡便となるので, 通常はそのように計算する.
教科書p35-38の練習問題15,16, 総合練習2-1の1の範囲で4問以上選択し,