日大工 総合教育 樋口幸治郎
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工科系数学I及び演習 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
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Was beweisbar ist, soll in der Wissenschaft nicht ohne Beweis geglaubt werden.
科学において, 証明せらる事柄は証明なしに信ぜらるべからず.
--- Was sind und was sollen die Zahlen?
Richart Dedekind
「数とは何かそして何であるべきか」リヒャルト・デデキント
本講義の主題は「微分」である.
講義では, 微分の公式や性質について学ぶとともに, 「微分」を学ぶ際に必要な, 「極限」や「連続性」, 初等的な関数の性質など, 「微分」の周辺的な知識も学んでいく.
色々な自然界の現象が微分を用いた方程式(=微分方程式)で表せることが知られている. それを解けば, 未経験の事柄をも予測可能となる. 例えば, 運動方程式と呼ばれる微分方程式を解くならば, 方程式で表される物体の動きが予測できることになる. このように, 微分は工学において非常に重要な理論である.
「数」と「関数」が今回(第1,2回)の主題である. 微分の理論について, $$舞台は実数, 又は, 複素数の世界$$ $$主役は関数たち$$ である. 一般に関数とは, あるモノに別のモノを対応させる規則のことを意味する. この講義で対象とするのは, 数に数を対応させる規則としての関数である.
第1回では, 数の分類の復習の他, 有理数と実数の性質や, 複素数の演算の練習をする(教科書範囲外).
第2回では, 関数についての用語法を学んだ後, 初等的な関数である2次関数の復習をしよう(教科書範囲外).
$$
複素数\mathbb{C}
\begin{cases}
実数\mathbb{R}
\begin{cases}
有理数\mathbb{Q}
\begin{cases}
整数\mathbb{Z}
\begin{cases}
自然数\mathbb{N}=正の整数\\
0\\
負の整数
\end{cases}
\\
分数
\end{cases}
\\
無理数
\end{cases}
\\
(純)虚数
\end{cases}$$
注意. 上の分類において, 自然数$\mathbb{N}$=正の整数としているが,
$0$も自然数に含めることも大学からの数学では多い.
$\mathbb{C}$はcomplex number(複素数),
$\mathbb{R}$はreal number(実数),
$\mathbb{Q}$はquotient(商),
$\mathbb{Z}$はZahlen(ドイツ語で数),
$\mathbb{N}$はnatural number(自然数)の頭文字となっている.
自然数は, 日常的には, 10進法により, $0$から$9$までの数を並べて表されている.
$$xは整数\quad\iff\quad x=-n, 又は, =0, 又は, =n\qquad({}^\exists nは自然数)$$ ここで記号「${}^\exists$」は「存在する」という意味である.
$$\begin{align} xは有理数\quad\iff&\quad x=\dfrac{m}{n}\qquad({}^\exists m,{}^\exists nは整数, 但しn\ne 0)\\ \iff&\quad xは有限小数, 又は, 循環小数で表される \end{align}$$
$$\begin{align} xは実数\quad\iff&\quad xは無限小数で表される\\ \iff&\quad xは数直線上の点 \end{align}$$ 無理数の場合, 循環しない無限小数となる. 数直線(=実数を対応させた直線)は実数直線とも呼ばれる.
$$\begin{align} xは実数\quad\iff&\quad x=a+bi\qquad({}^\exists a,{}^\exists bは実数)\\ \iff&\quad xは複素平面上の点 \end{align}$$ ここで, $$i=\sqrt{-1}$$は虚数単位と呼ばれる数である. 純虚数は$bi$の形で表される. 複素平面(=複素数を対応させた平面)はガウス平面とも呼ばれる.
$$有理数は数直線上稠密に分布している$$ 言い換えれば, どんな二つの実数の間にも有理数が存在する. これを有理数の稠密性という.
説明. 有理数の稠密性という事実は, 有限小数が有理数であることからわかる. 実数は, 無限小数で表されるので, 有限小数, すなわち, 有理数で好きなだけ近似していけるのである. 例えば, $$3,\ 3.1,\ 3.14,\ 3.141,\ 3.1415,\ 3.14159,...$$ という有理数の列は, 数直線上左から, 円周率にどんどん近づく. 同じように, 二つの実数$a<b$について, 実数$b$に数直線上左からどんどん近づく有理数の列を考えれば, そのうち$a<q<b$となるような有理数$q$が現れる. このようにして, 有理数は数直線上稠密に分布していることがわかる.
$$3,\ 3.1,\ 3.14,\ 3.141,\ 3.1415,\ 3.14159,...$$ という数列を考えると, 次第に大きくなる有理数列であるが, その値は, 例えば, $4$より大きくなることはない. このように, 次第に大きくなるが, 限りなく大きくなるわけではないような数列は, $$有界な数列$$ と呼ばれる.
さて, 有界であるが次第に大きくなる有理数列 $$3,\ 3.1,\ 3.14,\ 3.141,\ 3.1415,\ 3.14159,...$$ について, その極限である円周率は有理数ではない. だから, 有理数$\mathbb{Q}$は数直線上稠密に分布しているが, 言わば, 「穴」がある, と考えられる. 一方で, 実数$\mathbb{R}$には, こういった「穴」がない. このことを$$実数の完備性$$という. 完備性は色々な形で表現出来る. 定理の形でその一つを述べておこう.
定理 実数は完備である. つまり, 次第に大きくなる有界実数列 $$\ell_1\le \ell_2\le \ell_3\le \ell_4\le ......$$ は, ある実数の近似列となる. 言い換えると実数$u$が存在して, 数列$\{\ell_n\}$は$u$にどんどん近づいてゆく.
証明の概略
どんな無限小数も実数を表す, ということが以下の証明のポイントである.
議論を簡単にするため, 数列$\{\ell_n\}$に現れる実数は全て正の実数と仮定する.
(そうでない場合も以下と同じような考え方で証明できる.)
$\ell_1,\ell_2,\ell_3,\ell_4..$たちの小数表現を用いて証明する.
$$\ell_1,\ell_2,\ell_3,\ell_4..の整数部で最大の整数をa$$
とする.
(有界な実数列なので, そのような最大数が存在する.)
次に,
$$\ell_1,\ell_2,\ell_3,\ell_4..のうち整数部がaである実数の小数第1位の最大数をp_1$$
とする.
次に,
$$\ell_1,\ell_2,\ell_3,\ell_4..のうち小数第1位までがa.p_1である実数の小数第2位の最大数をp_2$$
とする.
次に,
$$\ell_1,\ell_2,\ell_3,\ell_4..のうち小数第2位までがa.p_1p_2である実数の小数第3位の最大数をp_3$$
とする.
以下, 同様の議論により作られる無限小数
$$a.p_1p_2p_3p_4\cdots$$
が表す実数を$u$とすれば,
実数列$\{\ell_n\}$は$u$への近似列であることがわかる.
講義の主な舞台は実数であるが, 補助的に, 複素数を舞台に話すこともある. その理由は, 微積分学について, 理論のより高度な段階では, $$複素数を用いると, 色々な事柄が単純になる$$ からである. 早めに複素数に触れ, 慣れておくことが, 今後の学習に役立つはずである.
複素数$x=a+bi$について, 実部$a$, 虚部$b$をそれぞれRe $x$, Im $x$と書く. つまり, $${\rm Re}\ x=a\qquad {\rm Im}\ x=b$$ である.
虚数単位$i=\sqrt{-1}$の自乗$i^{2}$は$-1$, すなわち, $$i^2=-1$$ である.
$$(a+bi)(c+di)=ac+adi+bci+bdi^2=(ac-bd)+(ad+bc)i$$
である.
因みに足し算は
$$(a+bi)+(c+di)=(a+c)+(b+d)i$$
と単純である.
$x=a+bi$に対して, $x$の共役複素数$\overline{x}$を $$\overline{x}=\overline{a+bi}=a-bi$$ と定める. 共役複素数は, 色々な計算に役立つ.
$x=a+bi$に対して, $x$の絶対値$|x|$を, 複素平面上での原点$O$と$x$との距離と定める. 三平方の定理から $$|x|=|a+bi|=\sqrt{a^2+b^2}$$ である. これは複素共役$\overline{x}$を用いて, $$|x|=\sqrt{x\overline{x}}$$ と書ける. 実際計算してみると, $$x\overline{x}=(a+bi)(a-bi)=a^2-b^2i^2=a^2+b^2=|x|^2$$ である.
$0$でない複素数$x=a+bi$の逆数$\dfrac{1}{x}$は $$\dfrac{1}{x}=\dfrac{\overline{x}}{|x|^2}$$ $$\left(\dfrac{1}{a+bi}=\dfrac{a-bi}{a^2+b^2}\right)$$ で表される. 実際計算してみると, $$x\cdot \dfrac{\overline{x}}{|x|^2}=\dfrac{x\overline{x}}{|x|^2}=\dfrac{|x|^2}{|x|^2}=1$$ であるから, $\dfrac{\overline{x}}{|x|^2}$は逆数である.
1. 有理数は数直線上稠密である.
2. 実数は完備である. つまり, 次第に大きくなる有界実数列は, ある実数の近似列となる.
3. 実数がメイン, 複素数は補助として用いる.
以下の複素数の計算問題を解きなさい.
定義 あるモノに別のモノを対応させる規則を関数という.
講義で主に扱うのは, $$実数に対し実数を対応させる規則$$としての関数である. これを $$実数上の関数$$という.
関数の表記法は2種類ある: $$「式による表記」と「グラフによる表記」$$
「式による表記」について, $$関数y=f(x)\qquad\left(又は, 関数f(x)とか関数fとも書く\right)$$ と書いた場合, モノ$x$に対して別のモノ$y=f(x)$を対応させる関数を表す. このとき$x,y$は考えている範囲のモノを動く変数であり, $$xは独立変数\qquad yは従属変数$$ という.
「グラフによる表記」について, 関数は(直交)座標平面(=独立変数xと従属変数yの関係を対応させた平面)で表される.
定義 関数$y=f(x)$について, この関数が意味をなす独立変数$x$の範囲を定義域といい, 従属変数$y$が値を取る範囲を値域という.
例.
関数$y=x$の定義域も値域も実数$\mathbb{R}$である.
関数$y=x^2$の定義域は$\mathbb{R}$である. 値域は非負実数(0以上の実数)であり,
この場合, 余計な値を含めた$\mathbb{R}$が値域と言ってもよい.
関数$y=\log x$の値域は$\mathbb{R}$である.
定義域は正の実数であり, この場合, 余計な値を含めた$\mathbb{R}$を定義域とは言わない.
このように
$$値域は余計な値を含んでよい$$
が,
$$定義域は余計な値を含んではならない$$
ことに注意しよう.
定義 関数$f(x)$とモノ$y$について, 等式 $$y=f(x)$$ を方程式といい, この等式を満たす$x$を方程式の解という. だから, $$表記「y=f(x)」は多義的$$ で, 関数を表すのか, 方程式を表すのか文脈で判断しなければならない.
典型的な方程式は $$f(x)=0$$ と書かれる方程式で, その解を関数$f(x)$の根という.
数学の中で, 最もよく出てくる実数上の関数として多項式がある.
定義 定数$a_0,a_1,\cdots,a_n$を用いて表される実数上の関数 $$y=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0$$ を多項式という. $a_n\ne 0$であれば, この多項式はn次多項式という. また, 方程式 $$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0=0$$ は代数方程式と呼ばれる.
次の事実は「代数学の基本定理」と呼ばれる. 複素数に関する重要な事実であるが, この講義でこの事実を用いることはないので証明は省略する. (証明は簡単ではない.)
事実(代数学の基本定理) 代数方程式は複素数解を持つ.
1次・2次の多項式は, 1次関数, 2次関数ともいう. これらについて復習しておこう.
$$\begin{align} 関数yは1次関数\qquad\iff&\qquad 一般形\quad y=ax+b\quad({}^\exists a,{}^\exists bは定数)\\ \iff&\qquad 標準形\quad y=a(x-p)+q\quad({}^\exists a,{}^\exists p,{}^\exists qは定数)\\ \iff&\qquad関数yのグラフは直線\quad(但しy軸とは非平行) \end{align}$$である. 一般形・標準形のいずれにせよ, $$aは直線の傾き$$ を表す.
標準形$y=a(x-p)+q$について, 座標平面上において, $$関数yは点(p,q)を通る傾きaの直線$$ となる.
$$\begin{align} 関数yは2次関数\qquad\iff&\qquad一般形\quad y=ax^2+bx+c\quad({}^\exists a,{}^\exists b,{}^\exists cは定数)\\ \iff&\qquad標準形\quad y=a(x-p)^2+q\quad({}^\exists a,{}^\exists p,{}^\exists qは定数)\\ \iff&\qquad分解形\quad y=a(x-s)(x-t)\quad({}^\exists a,{}^\exists s,{}^\exists tは定数)\\ \iff&\qquad関数yのグラフは放物線 \end{align}$$である. 一般形・標準形・分解形のいずれの形についても, $$a>0のとき下に凸,$$ $$a<0のとき上に凸$$ となる.
標準形$y=a(x-p)^2+q$について, 座標平面上において, $$点(p,q)は頂点\qquad 直線x=qは軸$$ となる. また, 分解形$y=a(x-s)(x-t)$について, $$s,tは2次関数yの根$$ である.
2次関数について, $$一般形から標準形を求めることを平方完成$$ という. 平方完成は $$\begin{align} y&=ax^2+bx+c\\ &=a\left(x^2+\dfrac{b}{a}x\right)+c\\ &=a\left(x+\dfrac{b}{2a}\right)^2-\dfrac{b^2}{4a}+c \end{align}$$ という式変形で求まる.
2次方程式$$ax^2+bx+c=0$$の解は, $$x=\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$$ である.
後にこの講義で学ぶが, 関数$y=f(x)$について, $$x=aでの微分f^\prime(a)は, グラフ上の点(a,f(a))での接線の傾き$$ を表す. 従って, 接線を表す方程式は $$y=f^\prime(a)(x-a)+f(a)$$ である(p75の[II]). だから, $$微分が計算できれば接線の式が求まる$$ と言える.
関数$y=x^3-4x$の$x=1$での微分は$-1$である. 点$P(1,-3)$における接線の方程式は?
答. 微分は傾きのことだから, 接線の方程式は $$y=-(x-1)-3=-x-2$$ である.
1. 実数上の関数$y=f(x)$とは, 実数に別の実数を対応させる規則.
2. 独立変数$x$の動く範囲を定義域, 従属変数$y=f(x)$の動く範囲を値域.
3. 1次関数のグラフは直線, 2次関数のグラフは放物線である.
教科書p76の問1の接線の方程式を求める問題を解きなさい. 但し, それぞれの問題の点Pでの微分は $$(1) y^\prime=1\quad (2) y^\prime=3\quad (3) y^\prime=2\quad (4) y^\prime=\dfrac{1}{4}$$ となることを用いなさい.